2012.06.08更新

 労働者の配置転換(長期にわたる職務又は勤務地の変更)についての判例をおさらいしておきます。
 リーディングケースは最高裁判所昭和61年7月14日判決(東亜ペイント事件)
 以下、判決の主要部分の引用です。
「使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することの許されないことはいうまでもないところ、当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は、業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである。」
 これをまとめると、配置転換命令が権利の濫用として無効とされる要件は、
(1) 業務上の必要性が無い場合
(2) 配置転換が他の不当な動機・目的で行われた場合
(3) 当該配置転換命令が労働者が通常甘受すべき程度を著しく越える不利益を負わせる場合
ということになります。
 さらに上記際高裁判決は、上記の「業務上の必要性」との要件について「当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要瀬に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認めらる限りは、業務の必要性の存在を肯定すべきである」と判示しています。

投稿者: 柏木幹正法律事務所

2012.06.01更新

 夫婦が離婚する際には、その夫婦間の子の親権者を定め、通常、親権者となった親が子を養育監護する。反面、親権者にならなかった親は、普段は子と離れて生活することになるが、子と会ったり一緒に時間を過ごしたりする権利が認められている。この権利を「面接交渉権」と言ったり「面会交流権」と言ったりする。
 従前、民法には面接交渉権に関する条文規定があったわけではないが、東京家庭裁判所昭和39年12月14日審判をリーディングケースとして、親権もしくは監護権を有しない親が子と面接ないし交渉する権利(面接交渉権)を有することが認められ、以後約50年にわたって、家庭裁判所は、子との面接交渉を求めたり禁止したりする調停や審判に対応してきた。つまり、離婚後あるいは夫婦別居中に子に会わせてもらえない父または母が家庭裁判所に子に会わせてほしいという調停や審判の申立てをすれば、家庭裁判所は、親に面接交渉権があることを前提として、一定の条件を定めて面接交渉を命ずる審判を行ってきた。
 そして、平成23年6月、民法766条が改正されて、「1項 父母が協議上の離婚をするときは、父又は母と子の面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護に必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。」「2項 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める」との条文となった。この改正によって、「面会及びその他の交流」の権利が初めて明文化されたのである。この条文では、「面接交渉」とい用語を使わず、比較的親しみやすい「面会交流」という用語が使われている。また、「子の利益を最も優先して考慮しなければならない。」というこれまでの実務上の考え方も簡潔な表現で明文化している。この民法改正は、これまで実務で形成されてきた内容に合わせて民法の条文を書き換えたものであり、面会交流についての実務的な取扱いや考え方が民法改正によって変わるものではない。
 なお、家庭裁判所が扱う家事審判の審判対象や手続は家事審判法と家事審判規則に定められていたが、手続に関する規定の不足が以前から指摘されており、平成23年5月には、これに代わる法律として家事事件手続法が公布された。同法は、公布日から2年以内に施行されることになっている。この家事事件手続法には、家庭裁判所は、未成年である子がその結果により影響を受ける事件においては、子の陳述の聴取、家庭裁判所調査官による調査その他の方法により、子の意思を把握するように努め、子の年齢及び発達の程度に応じて、子の意思を考慮しなければならないと定められている。これも、既に実務に定着した考え方及び方法を明文化したものである。
 さて、面会交流のルールは、審判の申立てに至る以前に、協議離婚の話し合いや離婚調停や離婚訴訟の裁判上の和解の際に話し合いで決められることが多いが、実際にはどのような内容で決められているのか。
 面会交流の回数は、「週に何日」とするものから「年に1回」とするものまで千差万別である。例えば、離婚係争中に、母親が親権者になることを前提に父親と子の面会交流の回数を決める話し合いをした場合、おそらくは母親自身が父親と会いたくないという気持ちが強く影響して、母親は極力面会交流の回数を少なくするよう主張し、父親はできるだけ多い回数を主張して、調整が難航するケースが多々ある。しかし、めんかの基本的な基準は「子の利益」「子の福祉」であり、母親や父親の気持ちが優先するわけではない。一般的には1~2カ月に1回程度と定められるケースが多いように思われるが、子供の年齢や子供と親の親密性、住居が近いか遠いかなどの要素がケースごとに考慮されて回数が決められることになる。私の経験では、父親が近所に住んでいるケースで「毎週末に面会交流」と定めてうまく運用されたケースもあるし、新幹線で面会に通わなければならないケースで「月1回」の面会交流が続けられているケースもあるが、母親が断固として面会交流に賛成しないため、ついに面会交流の合意すらできず、審判の申立てに至ったケースもある。ちなみに、このケースでは面会交流の回数が定められたが、それでも母親は子を父親に面会させることを拒否し続けた。そうなると、面会交流を実現する適切な強制執行の方法がないため、父親は面会交流の実現をあきらめざるをえなくなるのである。
 面会の場所や時間についても、比較的細かく「午前10時に父親が子を迎えに行き、午後6時に送り届ける」などと決めるケースが多い。面会以外にも、普段の電話連絡やメールができるか否かなどを決める場合もある。いずれにしても、決めた後の実際の運用が問題である。メールはしてもよいと決めたものの、父親から子への頻繁なメールが子のプレッシャーになり、面会交流のルールの見直しのための調停を申し立てたケースもあった。そのケースでは、家庭裁判所は、調査官が子や両親と面談調査し、適切に対応していただき、ルールの適切な見直しが実現したと思っている。











投稿者: 柏木幹正法律事務所

2012.03.29更新

 先日、私が長期間にわたって代理人を担当していた裁判で和解が成立した。少し変わったケースなのでご紹介する。
 Aさんは、複数の債権者に多額の借金をしたまま死亡。一方で、Aさんは多額の生命保険に加入していた。「私が死んだら生命保険金で借金を返すから」というのがAさんの口癖。債権者らもこれを信じてお金を貸していた。生命保険金の受取人は「法定相続人」とされていたので、本来の法定相続人であるAさんの息子Bさんがこの生命保険金を受け取ってAさんの借金を返せば何も問題はなかった。しかし、Bさんは、Aさんの借金を引き継ぐことを嫌って相続放棄したため、Aさんの兄弟であるCさんがAさんの相続人となった(先順位の法定相続人が相続放棄すると、次の順位の法定相続人が相続人となる)。もちろん、CさんはAさんの借金を相続するが、生命保険金を受け取って債権者に返済すればよいと思っていた。
 ここで、生命保険金を受け取ることができる「法定相続人」とは誰かが問題となる。①Aさんが死亡した時点の法定相続人であるBさん あるいは ②Bさんが相続放棄した結果最終的に相続人となったCさん のどちらなのか、という問題である。この点については最高裁判所の判例がある(昭和40年2月2日の最高裁判決と昭和48年6月26日の最高裁判決)。最高裁判決の結論だけ言えば、「特段の事情がない限り」①ということになる。つまり、Aさんの息子であるBさんは、相続放棄によってAさんの借金を引き継がなくてよいうえに、Aさんが加入していた生命保険金を受け取ることができる。一方Cさんは、Aさんの借金を引き継いだにもかかわらず、生命保険金は受け取れないので、債権者に返済することができない。しかし、この結論は何とも不公平な感じがする。
 そこで、私はCさんの訴訟代理人を引き受けて、生命保険金を受け取ったBさんに対し、生命保険金のうちAさんの借金返済に必要な金額はCさんに支払えという裁判を起こした。生前Aさんは生命保険金で借金を返すと言っていたので、Aさんは借金を引き継ぐ最終的な相続人が生命保険金を受け取り、そのお金で借金の返済をしてほしかったはずであり、このような事情は最高裁判決の例外、つまり「特段の事情」が認められる場合にあたるという主張である。
 長期間の審理の結果、裁判所も、Aさんの意思を合理的に解釈すれば借金の返済に充てるために生命保険金に加入していたものと認められるとの心証を開示し、BさんからCさんにそれなりの金額を支払うという内容で和解が成立したのである。

投稿者: 柏木幹正法律事務所

2012.02.22更新

これからブログを始めます。宜しくお願い致します。

投稿者: 柏木幹正法律事務所

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