2013.05.22更新

 確かに、このような法律をつくるか否かは婚姻観によって賛否の分かれるところで、是非の判断は微妙である。
 しかし、民法改正の成否にかかわらず、実際の裁判においては既にこれを認める傾向が圧倒的である。
 では、有責配偶者からの離婚請求によって離婚を余儀なくされる妻(または夫)は何によって救われるか。

 言うまでもなく、慰謝料の請求である。
 相手がそこまで離婚したいというのであれば、そんな不誠実な相手にしがみついていても幸せは望めない、相手からペナルティーを取って別れてしまいなさい、というわけである。
 しかし、裁判所は果たして意に反する離婚を強いられる者の納得を得られるだけの慰謝料額を認めるのか、ということが問題である。そこまで離婚の門戸を広げるのであれば、それに伴って慰謝料の基準も引き上げられるべきであろう。

 (以下、次回へ)

投稿者: 柏木幹正法律事務所

2013.05.17更新

 当時この判決は画期的であったが、その後、判例の流れは一気に加速し、その翌年には別居期間10年3ケ月のケースで有責配偶者からの離婚請求が認められ、現在では、5年程度の別居期間のケースでも有責配偶者からの離婚請求が離婚請求が認められる傾向にある。ただし、夫婦間に未成熟の子供があるようなケースでは、別居期間が長くても有責配偶者からの離婚請求は認められない。判例も、ここのところでは節を曲げずに踏みとどまっているという感じである。

 このような判例の流れをうけて、十数年前には、5年間を超える別居を離婚原因として明文化する民法改正案が上程されようとして議論を呼んだが、国民のコンセンサスを得られないと判断されたのか、今もってこの民法改正案は国会に提出されるに至っていない。
                                                                     (以下、次回へ)

投稿者: 柏木幹正法律事務所

2013.05.08更新

 ただし、例外として、離婚原因をつくった責任を負うべき配偶者(有責配偶者)からの離婚請求は認められない。早い話が、妻以外の女性と情を結んだ夫が妻に三行半を下すような手前勝手な離婚請求には法律は手を貸さないということである(もっとも、最近は夫と妻が逆のケースも珍しくない)。
 
 判例は長らくの間、特殊なケースを除いては有責配偶者からの離婚請求は一切認めないというスタンスを崩さなかった。しかし、本当にそれでいいのかと思えるようなケースもある。夫が妻以外の女性と不貞関係を結び、その後30年余りにわたって妻と別居し、不貞相手の女性と事実上の夫婦として生活を続け、その女性との間にできた子供も成人して、というところまでくると、離婚を認めざるを得ないのではないかということになる。
 昭和62年に最高裁は、まさにこのようなケースで初めて有責配偶者からの離婚請求を認めた。
                                                                        (以下、次回へ)

投稿者: 柏木幹正法律事務所

2013.05.07更新

 法律も壊れた夫婦関係を無理につなぎ止めようとせず、婚姻関係が破綻していると認められれば、つまり円満な夫婦関係を回復することが困難な状態となっていると認められれば一方の配偶者からの離婚請求を認めるという基本的な考え方に立っている。これを「破綻主義」という。
 夫婦関係が破綻に至る原因は様々であるが、基本的には原因の如何を問わず、夫婦関係が破綻している現状にあるか否かを判断基準にするという考え方である。
                                                                        (以下、次回へ)

投稿者: 柏木幹正法律事務所

2013.05.01更新

 前回で離婚の慰謝料の話に触れたついでに、今回では離婚問題について書いてみようと思う。
 
 弁護士の扱う仕事も時代を反映してある程度の流行り廃れがある。しかし、私が弁護士稼業を始めて以来25年間、もっともコンスタントに依頼を受け続けてきたのが離婚事件である。常時数件の離婚事件を抱えているという印象である。これは個人事件を多く取り扱っているという私の事務所のスタンスにも由来する印象ではあるが、それだけ世の中の離婚の件数が多いということでもある。統計的にも離婚の件数は着実に増加している。一昔前には離婚経験者は肩身の狭い思いをしたかもしれないが、現在はバツイチ、バツニも別に恥ずかしいことではないという風潮である。

 家制度に引きずられた結婚観は既に過去のもので、個人主義の浸透した現在にあっては、離婚の増加も必然的な現象である。誰しも自分が幸せになるために結婚するのであるが、不幸しにてその結婚が失敗であったとしたら、その結婚に固執して夫婦関係の不和に絶え続ける必要はない。
 
 人生は短く、しかも一度しかない。幸せに結びつかなかった結婚には早々に終止符を打ち、新しい人生の可能性を追求したほうがお互いにとって幸せだ。そう考えれば離婚も悪いことではない。
                                                                        (次回へ)

投稿者: 柏木幹正法律事務所

2013.04.24更新

 このように、離婚や交通事故のような類型的なケースの慰謝料は、これまでに積み重ねられてきた裁判事例によって、おおよその金額の基準ができている。
 つまり、裁判所が苦痛の値段を付けている。欧米において認められている慰謝料額は非常に低い。精神的苦痛の値段の低さは、その国の人権尊重の度合いの低さを表しているような気がする。人間の値段が低いということでもある。失礼ながら、中国の慰謝料基準は日本に比べても非常に低い。このことは、以前に中国で修学旅行中の高校生たちが列車事故で死亡した際に問題になった。もっとも、これには貨幣価値の違いがもちろん影響している。
 
 ところで、世の中、苦痛に満ちている。
 離婚や交通事故のように苦痛の値段についての類型的な基準があればまだ良いが、そうでない問題もたくさんある。
 
 上司からセクハラ行為を受けた場合の慰謝料は幾ら? 電車の中で痴漢行為をされた場合の慰謝料は幾ら?
 週刊誌にでっち上げの記事を書かれて名誉を毀損された場合の慰謝料は幾ら? プライバシー侵害の慰謝料は幾ら?
 騒音被害の慰謝料は幾ら?

 これらを考えだすと、今夜も眠れない。

投稿者: 柏木幹正法律事務所

2013.04.22更新

 今回は交通事故で死亡した場合の慰謝料は幾らか?を検討します。
 
 日弁連交通事故相談センターの基準によれば、被害者が一家の支柱として家族の生計を支えていた場合でも死亡慰謝料は2600万円から3000万円程度とされています。
 
 命が奪われた苦痛の値段としてはいかにも安いような気もしますが、これも裁判所が認めてきた金額を参考にして作った基準で、裁判をしてもこの程度の金額だという基準です。ちなみ植物人間になったような後遺症1級の慰謝料の基準金額も死亡慰謝料と同額です。
 確かに、死亡するのと植物人間になるのとどちらの精神的苦痛が大きいかは微妙な問題ではありますが。
                                                                   (以下、次回へ)

投稿者: 柏木幹正法律事務所

2013.04.18更新

 我々普通の庶民が離婚するとなると、慰謝料はいくらか?
 
 離婚裁判で認められる慰謝料は一般的に言って500万円程度が上限である。
 慰謝料は離婚原因を作ったことに対するペナルティーであるから、その原因の大きさや内容で慰謝料額は大きく異なるが、ひどい浮気者で暴力的な夫に対する離婚慰謝料請求のようなケースでも、500万円を超える慰謝料の支払を命ずる判決は少ない。
 離婚の苦しみ、悲しみも安く見られたものであるが、裁判所が幾らの慰謝料を認めるかという基準が協議離婚で慰謝料額を話し合う際の一応の目安になるのは当然である。裁判をすれば取れるか取れないか、というのが話し合いで妥協するか否なかの判断基準とならざるをえない。
 
 次回は、交通事故で死亡した場合の慰謝料について検討します。

投稿者: 柏木幹正法律事務所

2013.04.17更新

 慰謝料も含めて、賠償は金銭の支払をもって為される。時価50万円の置物が壊されれば、その損害額は50万円である。
 しかし、精神的苦痛には元々値段が付いていないから、慰謝料を請求するにあたっては、精神的苦痛に値段を付けるという作業が必要になる。しかし、どうやって値段のないものに値段を付けるのか。。。精神的苦痛の強さは個人差もあるし、目には見えないのに。。。

 離婚の例で考えてみよう。
 芸能人が離婚する際に慰謝料1億円を支払った、などと耳にすることがある。話し合いで決める場合には、お互いが納得さえすれば、慰謝料は50万円でも1億円でも構わないが、それにしも1億円などという高額の慰謝料は例外中の例外である。

 では、我々普通の庶民が離婚するとなると、慰謝料は幾らか?!
                                                                        (次回へ続く)

投稿者: 柏木幹正法律事務所

2013.04.16更新

 「慰謝料」と聞いて何を思い浮かべますか?
 私の予想だと、離婚の慰謝料を思い浮かべる人が80%、交通事故の慰謝料を思い浮かべる人が20%といったところか。。。
 
 慰謝料とは、言うまでもなく精神的損害に対する損害賠償金のことである。精神的損害とは、精神的苦痛である。つまり、痛い、苦しい、悔しい、悲しい、不安だ、不快だといいた精神状態である。
 債務不履行や不法行為によって相手に損害が生じた場合には、債務不履行者や不法行為者は相手の損害を賠償する義務を負う。その損害は財産的な損害だけでなく、精神的な損害も含まれる。
 
 つまり、相手の契約違反や違法な行為によって、いわれのない精神的苦痛を与えられた場合には、その苦痛に対する賠償を求めることができる。
 
 但し、その精神的苦痛と原因との間に相当因果関係が認められる場合、その原因があれば誰しも精神的苦痛を覚えるであろう場合に限られる。例えば、交通事故で負傷すれば慰謝料請求が認められるが、車が破損しただけでは慰謝料請求は認められにくい。

                                                                                                                                       (次回へ続く・・・)

投稿者: 柏木幹正法律事務所

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