2013.04.15更新

 労働審判では、審理の途中で調停の成立の見込みがあれば、労働審判委員会は調停を試みることとされている。
 調停による解決に至らない場合、つまり、解決案について当事者間の合意が成立しない場合には、審理に基づいて審判が言い渡されることになる。通常の裁判は、請求権の有無を判断するだけである。例えば、未払賃金100万円の支払いを請求する裁判では、100万円の貸金請求権が認められれば100万円の支払を命ずる判決が言い渡されるが、毎月10万円づつ10回の分割で支払え、という判決はない。
 しかし、労働審判では「個別労働関係民事紛争の解決をするために相当と認める事項を定めることができる」とされているから、場合によっては分割払いを命ずることもできる。例えば、解雇を巡る紛争の場合、解雇無効の確認を求める裁判では、解雇の無効が認められれば、「解雇が無効であることを確認する」と判決される。しかし、裁判に勝っても、実際に職場復帰することはなかなか難しい場合もある。
 このような場合、労働審判では、解雇無効を確認する代わりに、使用者に金銭の支払を命じて金銭解決させることも可能である。その紛争の実情にあった柔軟な解決を命ずることができるのである。
 このように見てくると、労働審判は個別労働関係民事紛争の解決システムとしてはかなりいい線をいっている、と言えそうだが、労働審判の結論に不服がある当事者は異議を申し立てることができ、異議の申立てがあると労働審判は効力を失い、通常の裁判に移行することになっている。 この場合、迅速な解決は実現されない。
 しかし、労働審判で敗れた側は、裁判に持ち込んでも敗色濃厚と考え、審判に従うのではないかとも思われる。

投稿者: 柏木幹正法律事務所

2013.04.12更新

 労働審判は、当事者が裁判所に申し立てる。
 労働審判を審理するのは、裁判官1名と労働関係について専門的な知識経験を有する者2名で組織される労働審判委員会である。
 審理回数は原則的に3回以内で、1回目の期日は申立後40日以内に指定され、2回目、3回目は1カ月おきに指定されるので、申立後3カ月から4カ月で審判が出されることになる。
 通常の裁判に比べれば迅速に結論が出されることは間違いない。また、通常の民事裁判では、主張内容はすべて書面に書いて提出することになっているが、労働審判では、書面の提出は労働審判を申し立てる際の申立書とこれに対して相手方が提出する答弁書だけで、あとは口頭で行なうものとされている。書面で主張を出すやり方だと、その次の期日までに書面で反論する、ということになり、審理が長期化する。
 労働審判では、迅速な審理をするために、審判期日に、その場で口頭で議論する方法をとっているのである。

投稿者: 柏木幹正法律事務所

2013.04.11更新

 近年、個別労働関係民事紛争が増加している。個別労働関係民事紛争というと難しそうだが、要は解雇、賃金未払、労災事故に関する損害賠償請求等、労働者と使用者の間に生じた個々のトラブルのことである。
 増加の原因としては、バブル経済の崩壊で各企業がリストラを進めたことがあげられている。リストラによる大量解雇、労働条件の引き下げ、等々、トラブルの原因になりそうなことを数えあげればキリがない。セクハラやパワハラ等の新しい形のトラブルも増加している。
 このような個別労働関係民事紛争の解決制度としては、裁判、民事調停、労働局(労働基準局)による指導、各弁護士会によるあっせん・仲裁制度等が従来からある。しかし、裁判は時間がかかり過ぎるし柔軟性に欠ける。労働局による指導は個別紛争の解決に直接つながらないことも多い。調停、あっせん、仲裁制度は当事者が合意に至らなければ解決を見ることができず、それまでの努力が無駄になるというケースが多い。このように、従来の解決制度だけでは個別労働関係民事紛争の増加に対して十分な対応ができないのが実情であった。
  そこで、平成13年に「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」が制定され、総合労働相談所を設置して個別労働関係民事紛争の相談を受け付け、都道府県労働局が、助言・指導とあっせんを行なう制度が作られた。以来、これらの制度も利用されているが、労働局の助言・指導やあっせんも、当事者の合意を基礎とする解決手段であるため、最終的に合意が成立しなければ解決できないという弱点がある。賃金請求や解雇無効確認などの個別労働関係民事紛争には当事者の生活がかかっている。裁判のように最終解決手段となって、しかも裁判より迅速で柔軟な紛争解決制度が必要である。そのような紛争解決制度として考案され、創設されたのが労働審判制度である。
 労働審判法は、平成16年に成立し、平成18年から施行されている。
 はたして、労働審判制度は個別労働関係紛争の理想的な解決手段となっているのか。
(以下、次回) 

投稿者: 柏木幹正法律事務所

2013.04.01更新

平成24年に改正された労働契約法の次のルールが本日(平成25年4月1日)から施行される。

1 有期労働契約が反復して更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申し込みにより無期j労働契約に転換される。
                                                                      (労働契約法18条)
   ただし、5年の通算契約期間の計算は、平成2年4月1日以後に開始する有期労働契約が対象。
   有期労働契約と次の有期労働契約の間の空白期間労が6ヶ月以上あるときは、空白期間以前の契約期間は通算されない。

2 有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めがあることにより不合理に労働条件を相違させることは禁止される。
                                                                      (労働契約法20条)
   ただし、労働条件の相違が不合理と認められるか否かは、次の点を考慮して個々の労働条件ごとに判断する。
  ① 職務の内容(業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)
  ② 当該業務の内容及び配置の変更の範囲
  ③ その他の事情
 
 上記の改正以外に、平成24年の労働契約法改正では、最高裁判所の判例が認めた「雇止め法理」を明文化する改正がなされている(労働契約法19条)。

投稿者: 柏木幹正法律事務所

2013.02.20更新

 時間外労働について割増賃金(いわゆる残業手当)を支払わなければならないことは労働基準法37条に定められていまるが、これを支払わない使用者が未だに多いようで、最近、時間外労働の割増賃金の請求に関する相談が増えている。
 最近の相談事例で、時間外労働時間をカウントする際に宿直時間をどうするか、ということが問題になったケースがあった。相談者は旅館の従業員で、定期的に宿直勤務があった。
 労働基準法41条には、「監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政庁の許可を受けたもの」については労働時間等に関する労働基準法の規定を適用しない、と定められている。宿直勤務は、この「監視又は断続的労働」に該当する。従って、宿直勤務については、労働基準監督署の許可を得ている場合に限り、割増賃金を支払う必要がない。逆に言えば、使用者が労働基準監督署の許可を得ていなければ、宿直時間についても時間外労働の割増賃金を請求できることになる。
 これに関する労働基準監督署の許可基準が定められている。許可基準の概略は次のとおり。
1 勤務態様
 ① 常態として、ほとんど労働する必要のない勤務(例えば、定期的巡視、緊急の文書又は電話の応対、非常事態に備えての待機等に限る
 ② 原則として、通常の労働の継続は許可しない(始業又は終業に密着した時間帯については許可しない)
2 宿直手当
  その事業所において宿直勤務に就くことを予定されている同種労働者の割増賃金の基礎金額の3分の1を下らない金額の宿直手当が支給されなければるならない。
3 回数
  週1回を限度とする。


 相談のケースは、使用者が労働基準監督署の許可体を受けていなかったケース。このようなケースでは、時間外労働割増賃金の金額が思わぬ多額になることがあるので、従業員は時間外労働時間のカウントの際に宿直時間のカウントを欠かさないこと。
 逆に使用者側は、宿直についての規則を整備し、労働基準監督署の許可を得ておくことが肝心である。

投稿者: 柏木幹正法律事務所

2013.01.18更新

 道路交通法第52条には「車両等は、夜間道路にあるときは、政令で定めるところにより、前照灯、車幅灯、尾灯その他の灯火をつけなければならない」と定め、同法施行令第18条2項によって、自動車が幅員5.5m以上の道路に停車又は駐車するときはハザードランプ又はテールランプをつけることを義務付けている。そこで、道路を走行してきた車両が無灯火の駐車車両と衝突したときの過失相殺が問題となる。この点に関する判例を紹介する。
1 東京地裁平成20年7月25日判決
  夜間、駐車禁止の幹線道路の左折直進通行帯の半分以上を塞ぐ状態でハザードランプもつけずに駐車していた自動車に、後方から走行してきた自動車が追突したケースにつき、無灯火の駐車車両に40%の過失を認めた。
2 名古屋地裁平成4年1月29日判決
  交通閑散な夜間、直線で見通しはよいが付近一帯に証明設備がないために暗い国道の第1車線上に無灯火で停車していた自動車に後方から走行してきた自動車が追突ケースで、無灯火の駐車車両に40%の過失を認めた。

 以上の判例から、無灯火の駐車車両に追突した事故では、駐車車両の過失割合が結構大きく認められることがわかる。但し、道路の明るさなどの具体的事故状況が考慮される。

投稿者: 柏木幹正法律事務所

2013.01.18更新

明けましておめでとうございます。
はや1月18日、遅くなりましたが、新年のご挨拶を申し上げます。
昨年末の選挙で政権が交代して以来、経済は円安株高で好調に推移し、景気回復の期待が膨らみますが、期待がため息に変わらぬことを祈るばかりです。もっとも、私の仕事は経済とは関係なく、皆様の身近な事件を誠実に一つ一つ解決に導くことです。お困りの問題があれば気軽にご相談ください。
今年もよろしくお願い申し上げます。

投稿者: 柏木幹正法律事務所

2013.01.18更新

明けましておめでとうございます。
はや1月18日、遅くなりましたが、新年のご挨拶を申し上げます。
昨年末の選挙で政権が交代して以来、経済は円安株高で好調に推移し、景気回復の期待が膨らみますが、期待がため息に変わらぬことを祈るばかりです。もっとも、私の仕事は経済とは関係なく、皆様の身近な事件を誠実に一つ一つ解決に導くことです。お困りの問題があれば気軽にご相談ください。
今年もよろしくお願い申し上げます。

投稿者: 柏木幹正法律事務所

2012.11.10更新

 センターラインのある道路で自転車の進行方向に向かって右側の車線を走行してきた自転車と、対向方向から同車線を走行してきた自動車が正面衝突したという事故の過失割合を調べてみた。つまり、道路右側を逆走してきた自転車とまともに左側車線を走行してきた自動車の事故の過失割合である。
 交通事故の過失割合については、別冊判例タイムズの「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」が最も信頼性のある基準である。東京地方裁判所の交通部の裁判官が構成する東京地裁民事交通訴訟研究会がこれを編纂している。
 この基準の最新のものは平成16年に発行された全訂4版であるが、これによれば、逆走自転車と自動車の衝突事故の過失割合は、自転車20に対して自動車80である。正直、私はびっくりした。逆走自転車の過失割合が余りにも小さく、まともに走行してきた自動車の過失割合が大き過ぎると感じたのである。一般に、自転車は交通弱者との考え方から、自動車との事故における自転車の過失割合は、自動車対自動車の事故の場合よりも小さく判断される。そのこと自体はよく理解できる。しかし、逆走自転車が20%の過失割合というのは、衝突した自動車に少し酷ではないだろうか。
 ちなみに、別冊判例タイムズの「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」の全訂3版を見てみると、同じ類型の事故について、自転車の過失割合は50%とされている。4版においてこれが20%に改められたことになるが、その理由は不明である。一般的な感覚では50%の方が納得しやすいのではないだろうか。

投稿者: 柏木幹正法律事務所

2012.08.16更新

私が被害者の代理人として訴訟をしていた訴訟交通事故損害賠償事件について、先般、比較的高額の賠償請求を認める判決が言い渡されたので紹介します。
1 事案内容
  被害者は事故当時29歳の男性会社員で、就業中に事故に遭い、多発性脳挫傷、びまん性脳損傷等の重症を負った。約1年の治療により症状固定と診断されたが、遷延性意識障害、四肢麻痺等の重篤な後遺障害が残り、「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」として自賠責保険後遺障害等級別表第一第1級1号に該当するものと認定された。約2年半の入院の後、自宅介護に移行している。
 訴訟における争点は、家族による入院付添費、将来の介護費、住居買換費用、介護用自動車購入費用、介護器具購入費用、逸失利益、慰謝料額等々、損害額全般にわたった。なお、過失相殺の適否も争点となっていたが、判決は過失相殺を認めたなかった(この点の説明は省略する)。

2 判決が認めた損害額
(1)  治療費                14,457,536円
(2)  転院時の移送費             418,805円
(3)  入院雑費                    526,500円 (日額1,500円)
(4)  家族の入院付添費          2 ,010,600円 (日額6,000円)
(5)  将来介護費
     ① 入院期間中の2年間      4,072,086円  (日額6,000円)
     ② 自宅介護(妻67歳まで)    63,449,568円  (月額360,000円)
     ③ 自宅介護(妻67歳以降)   9,357,322円  (日額15,000円)
(6)  家屋改造費(建替費)        9,074,000円
(7)  住宅買換経費                1 ,329,900円
(8)  車両購入費              2,400,000円
(9)  車両改造費              1,615,911円
(10) 介護ベッド購入費             1,599,263円
(11) 車椅子購入費             2,087,389円
(12) 入浴装置購入費           2,356,000円
(13) 歩行器購入費               267,687円
(14) めがね購入費                40,000円 
(15) 介護雑費
     ① 入院中                678,681円 (日額1,000円)
     ② 自宅介護期間          6,497,441円 (年額396,270円)
(16) 休業損害                5,226,861円
(17) 逸失利益              113,763,165円
(18) 傷害慰謝料              3,700,000円
(19) 後遺症慰謝料            25,000,000円 

以上合計 270,032,115円から損害補填済み金額を差し引き弁護士費用及び確定遅延損害金を加算した202,740,702円の損害賠償請求が認められた。また、家族の慰謝料請求についても330万円が認められた。

3 コメント
  症状固定後に被害者の後遺障害に多少の改善が見られたことから、将来の介護費は比較的低額の認容にとどまったものと思われる。被害者の身体状況や介護の実態については比較的正確に認定していたものの、損害の認定については、家屋建換費の一部やエレベータ設置費用を認めず、入浴装置についても実際に購入した費用の一部を認容するにとどまるなど、やや不満の残る内容であった。

投稿者: 柏木幹正法律事務所

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